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折鶴(日記)

引き続き、今は非公開の過去日記。


=====


「折鶴」


(1)
入院している父親を初めて見舞いに行く途中だった。
病院に向かうタクシーの中で 
流れる景色をぼんやりと見るのにも飽きて
あたしは静かに回想していた。


(2)
早くに母親を失くし 父親と二人暮し。
そして あたしは 父親が嫌いだった。
実際 酷い父親だった。
世間でどうだったかは知らないけれど
少なくとも娘の目には そう映った。


良く形容すれば 厳格な父親だった。
でもあたしからすれば ただの分からず屋だった。
小さい頃から 父親の意に沿わないことをすると酷く叱られた。
見境もなく怒った父親は あたしに手を上げたことも何回かあった。


子供のことを理解しようとしない。
いや 見ようともしていないのではないかと感じた。
全てが自分の思うとおりでなくては 気が済まないのだ。
いつしかあたしは 父親を憎むようになっていた。


(3)
そんなあたしが 父親を見舞う気持ちになったのは
ふとしたことからだった。
何となく時間があったので 昔の荷物を整理していたら
子供の頃の『宝箱』が見つかった。


大好きだった人形の服 かなり崩れてしまった押し花
必死に集めたおもちゃのアクセサリー。
それらを一つ一つ目を細めて懐かしんでいると 
小学生の頃の日記が出てきた。
微笑みながら頁を繰っていると こんなことが書いてあった。


『今日はドライブに行った。 着いた池のほとりに
鶴の飛来地 というのがあって何羽かの鶴がいた。
鶴って初めて見たけどすごくすらーっとしていてきれいだった。
ちょっと見ていたら 鶴は夕焼け空にさーっと羽を広げて
飛んで行った。
その姿がまたとってもとってもきれいで 鶴が大好きになった。
そうしたら 家に帰ってから お父さんが
めずらしくやさしい顔で 折り紙でとっても上手に
鶴を折ってくれた。
とってもうれしかった。宝物に加えておこう。』


しかし 目をやった宝箱の中には折り紙の鶴は入っていなかった。
まあ たいして気にも留めず読み進めていくと 
最後のほうのページにこんな記述があった。


『またお父さんにぶたれた。 
遊びに行ってとってもうれしくて楽しかったから 
まだ帰りたくないって言っただけなのに。
すごく怖い顔で ほっぺたを叩かれた もうやだ 大っ嫌い。』


そして 次のページに 折り紙の鶴が 
まるで押し花のように挟まれてぺしゃんこになっていた。


(4)
その鶴の姿を見ているうちに 一回ぐらい行こうかなと
なんとなく見舞いに行く気になったというわけ。
別にこれといった感傷はなかった。


そうこう考えているうちに 病院に着いた。
受付で面会の意を告げ 病室に入ると
やはりだいぶ変わってはいたが 
あたしの父親に間違いない姿が そこに寝ていた。
あぁ 父親だ。
そう思っただけで 特に何も感じなかった。


父親は眠っていたので ベッドの脇の丸い質素な椅子に腰掛けて
5分ぐらい父親や病室やベッドや窓の外を眺めていたが
あまりに何も感じることがないので もう帰ろうかと思った。
どうせ父親だって 完全に病気が進み 
誰が誰だか区別がつかないのだ。


(5)
椅子から腰を上げようとした時 
ちょっとつまずいてガタンと音を立てた。
静かな病室だったので その音は予想外に響き
父親が目を覚ましたようだった。
そして あたしの姿を認めたのか 口をもぐもぐさせた。
よく聞き取れなかったが どうやらあたしを
看護師と勘違いしているようで
「・・・を取ってくれ」と 言っているようだった。


ちょうどそのとき 看護師が入ってきた。
あたしは娘だとは言わずちょっとした知人だと挨拶をして 
ちょうど目を覚ましたようだと告げた。
そして 何かを取って欲しがっているようだと言うと
看護師はうなずき 慣れた手つきでベッド脇の
テーブルについている引き出しを開けた。
そして 中から折り紙を取り出した。


あたしが おやっ と思っていると 
どうやらおしゃべりらしい看護師は楽しそうに言った。


「意識がはっきりしていらっしゃるときは 
いつもいつも 折り紙をされているんですよ。
リハビリにもなることだからって 
私たちもお手伝いしているんですけどね。」


「・・・いつもいつも??」


「えぇ そうですよ。こちらに来られてから
いつもいつも折り紙をされていますよ。
それにしてもご家族の方も全然お見舞いにいらっしゃらないし・・・
いろいろと事情がおありなんでしょうけどねぇ。
あら お友達の方にこんなこと言っちゃ悪いかしら。」


あたしが何とも形容しがたい気持ちになっているうちに 
看護師は忙しそうに出て行ってしまった。
父親は そんな会話が耳に入った様子もなく 
せっせと何かを折り続けていた。


あたしは 何となく居たたまれない気持ちと
邪魔をしたら悪いという気持ち
―いまだに父親にそんな気を使ってしまう自分に苦笑した―
そして まぁ好きにやって頂戴という気持ちを抱えながら 
病室を後にした。


(6)
1ヵ月後 連絡があり あたしは再びタクシーで病院へ乗り付けた。
このような状況で病院から連絡をもらうという事は
どういうことかわかるでしょう。
病室へ向かっている途中に聞いた話では 
最近ではいよいよ度が進み
手も満足に動かせない状態になっていたそうだ。


病室に入ると 医者と親戚と この前の看護師も揃っていた。
父親は一見 落ち着いて寝ているようだった。
医者が父親に大きな声でゆっくりとはっきりと声を掛けた。
「娘さんがいらっしゃいましたよ」
あたしが実は娘だったと知って 看護師は一瞬ばつの悪い顔をしたが
さすがにそれどころではなく あたしも看護師も父親の顔を見た。


どうせ 何も反応はない。
と 思っていたとき 父親の目がゆっくりと開かれた。
そして 見えているのかいないのか ゆっくりと顔を動かした後
震える手で何かを伝えようとしているようだった。
あたしと看護師はすぐに気がついた。
「折り紙?」
看護師は例によって慣れた手つきで折り紙を父親に渡した。


偶々 渡された紙は白い紙だった。
父親は受け取ると 震える手と そして手に力が入らないと 
口やあごまで使いながら何かを折っていた。


見ていると それは見覚えのある形・・・鶴の形になっていった。
あたしは思わず看護師に聞いた。

「いつも鶴を?」

「・・・そうです。俺はこれしか折れないんだっておっしゃって。」

「・・・」

やがて鶴は完成した。 
だいぶ不恰好だが 左右非対称な特徴のある形は
幼い頃に折ってくれた鶴と全く変わらなかった。


そして 最後の一折を終えると 
父親は安心したように もしくは疲れきったように
ベッドにどさっと崩れ落ちた。
医師が脈を取り 力なくうなだれた。


テーブルの上に 真っ白な鶴が 
夕陽を浴びてぽつんと残っていた。


(7)
葬儀を終え 一段落してから 
未整理の遺品に大きな箱が残っているのを思い出した。
病院から手渡された箱で 父親が折っていたものが
全部入っていると言われた。


あたしは看護師の言葉を思い出していた。

「最初はね 不思議だなぁって思っていたんですよ。
周りの方が平癒を祈って千羽鶴を折るならともかく
ご本人が折るなんて。でも娘さんのお話を伺って納得がいきました。」


そんなことを思い出しながら あたしは箱を開けた。
箱の中には 色とりどりの数え切れない鶴が 
窮屈そうに詰まっていた。


どれもこれも ちょっと不恰好で。


流石にちょっと感傷的な気持ちになっていると 
その中に一つだけ 大きな鶴があった。
その鶴だけは折り紙ではない紙で折られていた。
そう 便箋だった。


あたしはその鶴を手に取ると 
ちょっとためらったが思い切って開いてみた。


中には 父親の汚い字が書かれてあった。
病気の狭間で死期を悟った父親が遺した手紙だった。


(8)
『娘へ
父さんはお前を愛している。
だが お前は父さんのことを憎んでいるかもしれない。
いや きっとそうだろう。
何にでも不器用な父さんは お前を愛しく 
大切に思う気持ちをどうやって伝えたらいいかわからず
抑えつけたり ときには手を上げたりまでしたからな。


そんなとき 父さんは凄く自分を責めた。
叩いた夜は必ず 寝ているお前の顔を見ながら
自分の面を何度も何度もひっぱたいた。


今 このような環境になって 尚更お前のことを考える。
子は親を選べない。
こんな父さんで済まなかった。
もっと優しくしてやれたのに。
もっと幸せにしてやれたのに。と思って仕方がない。


だから父さんはせめてものつぐないに 
お前がいつか見てから大好きだった鶴を
お前の幸せを願って 
いっぱいいっぱい折ってやることにしたんだ。


最後にもう一度だけ 言わせて欲しい。


「 
                     」』


最後の一文を読むのが辛くて 
あたしは涙が溢れる顔を天井に向けた。


父親はあの孤独な病室でずっとずっと
あたしのためにこの色とりどりの鶴を折っていたのだ。
そう思うと 箱の中の鶴が かけがえのない宝石のように見えた。


少し落ち着いてから 手紙に目を戻した。
最後の一文には こう記されていた。


「父さんはお前という可愛い子の親になれて幸せな人生だった。
父さんは お前を 愛している。」


あたしは箱の中から唯一見覚えのある折鶴を取り出して 
両手で抱えるように持った。


父親が最後の最後に折り上げた 真っ白な鶴。
その左右非対称な鶴は 
今までに見たどんなものよりも美しい姿をしていた。


あたしの目から落ちた涙が ぽつりと鶴に落ちた。
水気を帯びた鶴は 温かみを増したようだった。
思わずあたしは その鶴に向かってそっとつぶやいた。


「お父さん あたしも あなたの子供に生まれて 幸せです。」


(2007年10月19日)


=====


なんか一見、物語というか小説風な。
こういうテイストのも書いてみたかったんですね。

当然、駄作以外の何物であるはずも無く、
今や非公開として蔵の中にそっと眠ってるわけですが^^;


なんていうのかな、
母と息子。父と娘。
同じ親子なんだけど、それぞれちょっと違う関係があるよね。


そして、多分なんだけど男親って特に大きくなった娘には、
とっても不器用なもので。

こんな形でしか示せない時もあるんだろうな、と。

でも…ああ、野暮な解説はやめておきます^^


久しぶりに蔵から取り出した「折鶴」
自分で読み返して、色んな想いが駆け巡りました^^


 

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以前読んだ時にどんな感想を書いたか(もしくは書けずにいたか)覚えてないけど

色々自分の周りの状況が変わってきた今の方が
ずしんと心に沁みる感じがするんだ

自分と父
相方とサチ
両方を思い、男親の不器用さを思い、ちょっと複雑な笑い顔の自分

最近になって
ようやく父のいろんな面が見えてきて
前よりはちょっとだけ好きになってきた(笑)

今のタイミングで読めて良かったよ。ありがとう。

あ、名前の所にタイトル書いちゃった

Re: タイトルなし→しゃいへ

以前もらった感想を読み返してみて…なるほど、ふむふむ(笑)

時が経って環境も変わって、
色々思うことも変わって。

それは自分だけじゃなくて相手もそうで。
だから関係性って難しい。

でも根幹には愛情がある、それが親子なのだよね、きっと。

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